東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)66号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、第二引用例における記載によつて開示された技術内容を誤認し、ひいて本願発<注>明の構成要件(2)との比較において、その判断を誤つたものであり、違法たるを免れない。以下その理由を説明する。
第二引用例における記載のように、「L―グルタミン酸を油浴中で一九〇〜二〇〇Cに二時間半加熱」した場合、グルタミン酸のピロリドンカルボン酸への変化は、ほとんど完全に行なわれ未変化のグルタミン酸が反応生成物中に残留しないであろうことは、この場合の加熱が熔融加熱を意味し(このことは、右記載自体から明らかである。)、また、グルタシミン酸が脱水されてピロリドンカルボン酸に変化する温度は一六〇附近である事実に徴し、容易に看取しうるところであり、他にこれを左右するに足る証拠はない。(したがつてこの反応生成物中に未転換のグルタミン酸が存在する、とした本件審決の認定は誤りである。)。また、この反応生成物に熱水を加えてDL―ピロリドンカルボン酸を再結晶させる場合においても粗ピロリドンカルボン酸に水を加えたことにより若干のグルタミン酸が発生することは、化学常識上、これまた容易に考えられるところであるが、その量は、きわめて僅少であり、ほとんど考慮するに値しない程度のものであると認められ、これを覆すに足る証拠はない。すなわち、
(1) 成立に争いのない甲第十五号証の一、二によれば、L―ピロリドンカルボン酸を再結晶する全操作を通じて、ピロリドン環は開かなかつたこと(すなわち、グルタミン酸に変化しなかつたこと。)
(2) 成立に争いのない甲第十六号証(実験報告)によれば、ピロリドンカルボン酸の0.5%がグルタミン酸に変化するに要する時間は、七〇度Cで二時間十八分、八〇度Cで五九分、九〇度Cで二五分であることがそれぞれ認められるから、これらの事実に徴すれば、ピロリドンカルボン酸の再結晶のため熱水に熔解する場合、グルタミン酸が生成することがあるとしても、この量は、きわめて微量であると認められる(したがつて、本件審決が、第二引用例におけるの記載は、「DL―ピロリドンカルボン酸が熱水からの再結晶により他の成分から分別されることを教示するものである」としたことは、この「他の成分」中に未反応のグルタミン酸を含む趣旨とすれば、そこに開示された技術内容を正確にとらえたものではない。)
他方、本願明細書によれば、本願発明においては、グルタミン酸を特定量の水と共に加熱してDLーピロリドンカルボン酸を生成せしめるものであり、その際の平衡恒数は92.5%であるという事実を認めうべく、この事実によれば、右混合水浴液中には、多量のグルタミン酸が未転換の状態で存在することは明らかであり、本願発明の構成要件(2)は、このような混合水浴液からDL―ピロリドンカルボン酸だけを結晶として析出せしめて分取する技術的手段を示すものである。本願発明は、グルタミン酸の水に対する溶解度は、共存するピロリドンカルボン酸の量に影響され、グルタミン酸は、単独では水に難溶であるが、多量のピロリドンカルボン酸が共存するときは、その溶解度が著しく増大するという知見に基づいて、反応混合水溶液より直接(従来法のように有機溶剤による抽出、濃縮乾固等の工程を経ることなく)純粋なピロリドンカルボン酸を結晶せしめうるものである。しかして、叙上認定の事実に徴すれば、第二引用例中に開示された技術内容と本願発明、とくに、その構成要件(2)の技術内容とは、そのよつて立つ技術的思想を全く異にすることは、きわめて明白なところというべきである。したがつて、この点に関する本件審決の認定ないし判断が正当とはいえないことも、また明白なところといわざるをえない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。
よつて、これを認容する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)